としょかんに行こう! 〜コトブキからなみのり
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ポケ(モン)マス(トドン)アド(ベント)カレ(ンダー)12月17日分の参加記事です。モントドンベントンダー
イントロダクション

ミオシティ、良い曲ですよね。さて、ミオシティといえば大きな橋、ミオジム、波止場の宿、そしてミオ図書館。
ミオ図書館の本や作中人物などによって語られる「シンオウの神話」には、「たぶん元ネタが存在しているものなのだろう」という話がいくつか存在しています。 この記事ではそういった元ネタっぽさのあるものの紹介を主な目的とし、いくつかの記述に触れていきます。
先に、シンオウ神話の概要についてはこちらhttps://fululu.hateblo.jp/entry/2024/12/16/000000 (このブログのひとつ前の記事です)
・個人的な憶測です。
・DPPt(ダイヤモンド・パール/プラチナ)、HGSS(ハートゴールド・ソウルシルバー)、BDSP(ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール)、LA(LEGENDS アルセウス)の略称を用いています。
・いわゆる「本編」のみにおける話です。
・作中テキストは一部除きポケモンWikiから引用しています。
・一部テキストは独自に漢字になおして引用しています。
時間と空間

往古来今 謂之宙
四方上下 謂之宇
現在を含む未来 すなわち時間を宙と呼び
前後左右上下の全方向 すなわち空間を宇と呼ぶ
(LA,コギトの言及)
この前半部分はそのまま紀元前2世紀に書かれた思想書「淮南子」を引用しています。例外的な、そのままの引用ですね。
Pt限定でミオ図書館に現れるゴヨウも、「宇宙とは時間と空間を意味する言葉だった」と書かれた、「昔に外国で書かれた哲学書」に言及します。
さいしょの ものは
ふたつの ぶんしんを つくった
じかんが まわりはじめた
くうかんが ひろがりはじめた
(DPPt,ミオ図書館『はじまりの はなし』)
一方で、神話の中で「時間」と「空間」を世界の始まりに置くのは神話らしくなさそうと言いますか。
昼と夜ができた、星の運行をはじめた、天地を作った、天地を広げた、という言い回しでなく、時間と空間をともに具体的なキーワードとして語り、重要視するのは、やっぱり現実にある神話からは遠い印象があります。
「タマゴ」からはじまる話
はじめに あったのは
こんとんの うねり だけだった
すべてが まざりあい
ちゅうしんに タマゴが あらわれた
こぼれおちた タマゴより
さいしょの ものが うまれでた
(DPPt,ミオ図書館『はじまりの はなし』)
シンオウ神話では、最初に混沌から「タマゴ」が生まれたとされています。 そのように「世界のはじまりには卵があった」とするのは「宇宙卵」起源といわれています。
卵、あるいは形のないものから世界が生まれるというのは、フィンランドやギリシャ、中国、東南アジアからポリネシア地域まで幅広くみられるモチーフです。中国の「盤古」が好例です。
『三五歴紀』によれば、原初には天地は混じり合っていて、鶏卵のようにふわふわとしていた。その中に盤古が生まれてくると、はじめて天と地が分かれ始め、清いものは天空となり、濁っているものは大地となった。
『世界神話事典 創世神話と英雄伝説』,p59
一方で、ギンガ団アジトでの記述ではビッグバンに寄った表現になっています
宇宙の始まりは大爆発から
大昔のシンオウもなにかしらの
爆発により生まれたと推測する
(DPPt,ギンガ団アジト『宇宙の始まり』)
ビッグバンと宇宙卵との関連付け。これに関しては、ビッグバンという言葉ができる前に、宇宙膨張の理論を提唱した物理学者であるジョルジュ・ルメートルが自説の中で持ち出していました。ルメートルは、宇宙卵という「特異な超高密度状態」が爆発して以降宇宙は膨張し続けているという理論を提唱したといいます。
上記の考え方と合わせると、シンオウ神話の世界の始まりは「タマゴの爆発=ビッグバン」としてのイメージがあるのではないかと思います。
ただ、宇宙卵という見方以前に「ポケモンはタマゴから生まれるもの」、そして「世界を作った存在はポケモンである」、であれば「世界を作った存在も当然タマゴから生じる」もの。という言い方もできるかもしれません。
水底から源をもってくる話

3びきの ポケモンが いた
いきを とめたまま
みずうみを ふかく ふかく もぐり
くるしいのに ふかく ふかく もぐり
みずうみの そこから
だいじなものを とってくる
それが だいちを つくるための
ちからと なっている という
(DPPt,ミオ図書館『はじまりの はなし』)
シンオウ神話には3匹のポケモン(恐らくはアグノム・ユクシー・エムリット)が湖の底から大地を創るための力となる「だいじなもの」を取ってくる、とされる話もあります。 大地を創るためのものを水の底からもってくる、という類型は「潜水神話」とよばれています。
これも広く世界に分布している神話の類型で、具体的には北米に多く存在し、中央アジアにも分布しているとのこと。概ね人間や動物たちが一面の海の底から泥を持ってきてはそれが大地のもとにされる、というものです。
カリフォルニアのモノ族によれば、昔、水が世界を覆っていた。水から棒が一本出ていて、鷹と烏が止まっていた。鷹は鴨に三の数字を与え、水に潜って底の砂を持ってくるよう命じた。(中略)今度は鸊鷉[カイツブリ]に四の数字を与えた。鸊鷉は四日のうちに底に着いて、両手に砂をつかんだ。(中略)鸊鷉の手を見ると爪の間に砂があった。鷹と烏はその砂を取って、四方にばらまいた。こうして陸地ができあがった。
『世界神話事典 創世神話と英雄伝説』,p74
ただ、シンオウ神話では「湖」を舞台としているため、潜水神話にあるような「海しか無いところから大地を造り出す」というかたちではないようです。 メタ的にいえば「みずうみ」の語を出してエムリットたちを連想させるための記述であるのかと。
巨人が大地を造る話

縄で 縛った 大陸を 引っ張って
動かしたという 伝説が 残されている。
(DP、レジギガスの図鑑説明)
縄で縛りし大陸 曳きて
ヒスイの地 造りしとの 伝説あり。
疑義あれど 真理一片 あるやも知れず。
(LA、レジギガスの図鑑説明)
アルセウスの神話とは別に大地をつくった伝説を残すレジギガス。
この伝説は『出雲国風土記』に記された「国曳き」神話と似ています。神(八束水臣津野命)が海の向こうの「国の余り」に鋤を突き立て、太綱を掛けて手繰り寄せ縫いつけることを繰り返して、出雲の土地の一部をつくったという話です。
また、「巨人」と「国造り」から連想するものといえば、日本国内でいえばダイダラボッチなどの名前で呼ばれる巨人伝説が挙げられます。怪力で山や島、あるいは川や湖を造ったという巨人伝説で、沖縄から東北まで各地に伝わっています。
さらにプレートの記述から推測される 「倒された巨人」から連想できるものについては、次の項目にまわします。
倒された「巨人」
プレートに あたえた ちから
たおした きょじんたちの ちから
(DPPt,プレートの記述)
倒された巨人、そしてその巨人の死体から天地が造られたという類型としては、上記の盤古に加え、北欧神話におけるユミルの話が代表的です。
中世アイルランドの文人スノリ=ストゥルソン(一一七九〜一二四一)の『エッダ』の中の「ギュルヴィたぶらかし」などによれば、(中略)霜も熱風がぶつりかり霜が溶けてしたたり落ちたしずくから生命が生まれて、「霜の巨人」の祖先である原人ユミルとなった。(中略)神々はユミルを撲殺し、その死体から世界を造った。血は海や川となり、肉は土に、歯や骨の破片は岩や砂礫になった。また神々は水を導いて大地を取り巻いて流れるようにした。次いでユミルの頭蓋骨を大地の上に置いて天蓋とした。
『世界神話事典 創世神話と英雄伝説』,p71
しかし「きょじんたち」は「死体を天地創造に使われた」わけではないので、なんとなくエッセンスを拾ってきた、とみたほうがいいでしょうか。上記のような天地創造の類型、から逸れることにはなります。
また、「神」と「巨人」が戦い巨人が倒された、というと巨人族ギガースらとゼウスらの戦争・ギガントマキアー(ギリシャ神話)や北欧神話の印象も強いかと思います。ただ、ここでは「倒した巨人」以上に情報がなく、それまでに何があったのか言及がないため、どの程度要素が想定できるかは不明です。
シンオウ昔話
『シンオウむかしばなし』では、「食べた後のポケモンのホネは肉体を付けて戻ってくる」「皮を脱ぎ人とポケモンの姿を行き来する」「人とポケモンは昔は“同じ”だった」という話が語られますが、これらについてはアイヌの神話との類似が指摘されています。その点については既に記事を書かれた方がいますのでこちらでは割愛し、以下にリンクを添えます。
https://note.com/pocketfantastic/n/nd989c9e7e051
ただ、このような動物から人間、人間から動物への変身などはアイヌに限らず狩猟採集民族にはしばしばみられるモチーフとなっています。舞台からみるにアイヌ神話が元ネタの可能性が高いところですが、一応「一つの類型」の踏襲であるといえるかと。
また、動物と人間が結婚したという、いわゆる異類婚についてはより広くみられる類型で、日本神話の中にもみられます。「ふつうのことだった」とまで言うのはシンオウ神話独特のものとなりますね。
考察的なもの
は次の記事にて。
→ https://fululu.hateblo.jp/entry/%E3%81%84
参考文献
大林太良(1966)『神話学入門』,中央公論社(2019,ちくま学芸文庫)
山田仁史(2017) 『新・神話学入門』,朝倉書店
後藤明(2017)『世界神話学入門』,講談社現代新書
荻原千鶴(1999)『出雲国風土記』,講談社学術文庫
大林太良・伊藤清司・吉田敦彦・松村一男 編(2012)『世界神話事典 創世神話と英雄伝説』,角川学芸出版
小松和彦 編・著(2009)『日本の妖怪』,株式会社ナツメ社
二間瀬敏史(2017)『宇宙を見た人たち』,海鳴社